地元暮らしをちょっぴり楽しくするようなオリジナル情報なら、地域情報サイト「まいぷれ」!
文字サイズ文字を小さくする文字を大きくする

杉並区の地域情報サイト「まいぷれ」杉並区

まいぷれ杉並区スタッフが行った!みた・きいた!

【高円寺】座・高円寺 まちと劇場のカフェトークー地域と文化をつなぐ、ひらかれた月例トークー

第一回 テーマ 2026年度ラインアップと『長生炭鉱―生きたかった』

リニューアルを象徴する新しいシンボルを劇場壁面に掲げた座・高円寺

新体制となった座・高円寺で始まる「まちと劇場のカフェトーク」

17年の実績を継承し、「開かれた劇場」として新たな一歩へ
大川智史館長とシライケイタ芸術監督による軽妙なトークも印象的
今回、私は高円寺にある座・高円寺で開催された新企画、「まちと劇場のカフェトーク ―地域と文化をつなぐ、ひらかれた月例トーク―」を取材しました。

 

会場となったのは、2階の「まぁるいカフェ」。

劇場のイベントというと、少し堅い雰囲気を想像する方も多いかもしれません。しかし実際には、ドリンクを片手に気軽に参加できる、とても柔らかな空気に包まれていました。

来場者との距離も近く、「劇場と地域をつなぐ」という今回の企画意図が、その場の雰囲気からも自然と伝わってきます。

この月例トーク企画そのものが、大川智史館長による鳴り物入りとも言える新しい試みであるという点でした。

17年間の歩みを継承し、新体制で再出発した座・高円寺

座・高円寺は、2009年の開館以来、特定非営利活動法人「劇場創造ネットワーク」が運営を担ってきました。

初代芸術監督・佐藤信氏とともに掲げてきたのは、「劇場の広場性」という考え方です。

それは単なる貸館ではなく、創作や人材育成、地域交流が一体となった公共劇場を目指すというものです。

17年間にわたり、その理念を積み重ね、日本でも屈指の「地域に根ざした公共劇場モデル」を築き上げてきました。

そして2026年度から、そのバトンを引き継ぐ形で、新たな指定管理者となったのが合同会社syuz’genです。

今回の取材では、その「継承」と「刷新」の両方を強く感じました。

                  大川智史館長

新たなミッション、「劇場から、想像力を耕す」

新体制となった座・高円寺が掲げる新たなミッションは、「劇場から、想像力を耕す」という言葉です。

これは、前体制が大切にしてきた「市民の日常に寄り添う表現の場」という理念を、現代的にアップデートしたものだそうです。

劇場のシンボルマークも刷新され、芝居小屋をイメージしたテント型のデザインと、「座」を表現した円弧のロゴタイプが組み合わされています。

単なるデザイン変更ではなく、「開かれた劇場」への意思表示のようにも感じました。

まちと劇場のカフェトークは、その象徴だった

今回始まった「まちと劇場のカフェトーク」は、まさに新体制の理念を象徴する企画でした。

劇場が一方的に作品や情報を発信するのではなく、地域の人々と同じ目線で語り合い、文化や劇場の未来について共有していく。そんな温かな対話の場が生まれていました。

劇場を「特別な人だけの場所」ではなく、日常の延長線上にある広場として開いていこうという意志が、企画全体から感じられました。

来場者が気軽に参加し、館長や芸術監督の話に耳を傾けながら時には笑い合う。その光景こそが、座・高円寺が目指す“開かれた劇場”の姿なのかもしれません。

大川館長とシライ芸術監督の息の合ったトーク

今回の登壇者は、大川智史館長とシライケイタ芸術監督のお二人です。

印象的だったのが、お二人の息の合った軽妙なトークでした。

劇場運営や作品について真剣に語りながらも、そのやり取りには自然なユーモアがあり、会場からは何度か笑いが起きていました。

大川館長が話を広げ、シライ芸術監督が独自の視点で応え、それをまた館長が受ける。その掛け合いは非常にテンポが良く、初回とは思えないほど和やかな空気を作り出していました。

会場との距離も近く、参加者は単に話を聞くだけではなく、その場の空気を一緒に楽しんでいるようでした。「劇場をもっと身近な存在にしたい」というお二人の思いが、言葉だけではなく会場全体の雰囲気からも自然と伝わってきます。

堅い説明会ではなく、人と人とが言葉を交わす「会話」の場になっていたことが、とても印象的でした。

     劇団「温泉ドラゴン」演出家・劇作家

     シライケイタ芸術監督

社会とつながる演劇を掲げる、座・高円寺新時代のキーパーソン

2026年度より新体制となった座・高円寺において、芸術監督を務めるのがシライケイタ氏です。

今回、「まちと劇場のカフェトーク」で実際にお話を伺い、まず感じたのは、“劇場人”という枠を超え、人と社会をつなぐ対話者のような存在だということでした。

大川智史館長との息の合った軽妙な掛け合いで会場を和ませながらも、その言葉の奥には一貫して、「劇場は社会とどう向き合うべきか」という強い問いと信念が感じられました。

文化や芸術を特別なものとして閉じるのではなく、地域や社会へ開き、人と人とをつなげていく。その姿勢は、今回のトークの随所から伝わってきました。

新たな座・高円寺の方向性を語る上で、シライ芸術監督はまさに中心的な存在であり、これからの劇場づくりを担うキーパーソンと言えるでしょう。

2026年度 主催8プログラムが発表

今回のカフェトークでは、2026年度の主催ラインアップについても紹介がありました。

今年度は、前体制が築き上げてきたレガシーを受け継ぎながら、新体制ならではの挑戦的な企画も数多く並びます。

地下2階区民ギャラリーで開催される「ギャラリーおちらしさん特別展 in 座・高円寺」、梅田哲也氏による『空洞』、日韓共同製作として大きな注目を集める『長生炭鉱―生きたかった』をはじめ、「高円寺プレイグラウンド(仮)」、「夏の夜の夢」、アジア圏との国際共同アートキャンプ、『トロイメライ』、さらには座・高円寺 演技アカデミー修了上演など、多彩な8つの主催プログラムが予定されています。

作品の上演だけでなく、国際交流や地域との連携、人材育成までを視野に入れたラインアップとなっており、新たな座・高円寺の方向性が感じられました。

また今年度からは、「日本劇作家協会プログラム」に加え、「日本演出者協会セレクション」が新設されます。

日本を代表する演出家団体である日本演出者協会との新たな連携が始まることで、これまで以上に多様な創作活動や表現との出会いが期待されます。

17年間で培われた劇場文化を大切にしながらも、新しい挑戦を積極的に取り入れていこうとする姿勢が、2026年度のラインアップからも伝わってきました。

壁面には絵本も並べられています

新しくなった「まぁるいカフェ」の壁面には絵本も並べられており、小さな子どもから大人まで気軽に手に取れる空間となっていました。

子どもの頃に読んでもらった一冊に出会えるかも

並べられた絵本の中には、「子どもの頃に読んでもらった」という懐かしい一冊が見つかる方もいるのではないでしょうか。

えほんのわっか つなぐプロジェクト

思い出いっぱいの「えほん」を、次の世代の子どもたちへ。

座・高円寺では現在、絵本の寄付を募集しています。

集まった絵本は、2階「まぁるいカフェ」の絵本棚を彩るほか、毎週末に開催される読み聞かせと工作のプログラム「えほんのわっか」で活用されます。

さらに、新たにスタートする「劇場前マルシェ」では、子どもたちが自由に持ち帰ることができるコーナーの設置も予定されているそうです。

子どもの頃に夢中になった物語や、家族に読んでもらった思い出の一冊が、また別の誰かの心を豊かにする。そんな素敵な循環を生み出そうという取り組みです。

座・高円寺に集まったたくさんの物語が、人から人へ、世代から世代へと受け継がれていく――。「えほんのわっか つなぐプロジェクト」には、劇場が地域の広場であり続けたいという思いも込められているように感じました。

長生炭鉱―生きたかった

今回のカフェトークでも大きなテーマとして取り上げられたのが、2026年6月に上演される日韓共同製作『長生炭鉱―生きたかった』です。

本作は、1942年2月3日に山口県宇部市の長生炭鉱で発生した水没事故を題材としています。事故では183名が犠牲となり、その歴史は長い年月を経て現在に伝えられています。

作品では、この史実に着想を得ながら、2025年を舞台にダイバーのアキラとク・ソヨンが遺骨捜索のため潜水する姿を描きます。物語は過去と現在を行き来しながら、坑道に閉じ込められた鉱夫たちの記憶と、その痕跡を追い続ける人々の姿を重ね合わせていきます。

なお、本作品は史実をもとにした創作作品であり、登場人物や台詞、出来事については上演のために再構成されています。

カフェトークでは、シライケイタ芸術監督が本作に込めた思いや、日韓共同製作として取り組む意義についても語られました。歴史を見つめ直しながら、人と人との対話や理解について考える機会となりそうです。

【公演情報】
公演名:劇団温泉ドラゴン×劇団58ROUTE 日韓共同製作『長生炭鉱―生きたかった』
期間:2026年6月5日(金)~6月14日(日)
※6月8日(月)休演
会場:座・高円寺1

助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業〈公演創造活動〉)/独立行政法人日本芸術文化振興会
主催:座・高円寺(指定管理者:合同会社syuz’gen)、一般社団法人劇団温泉ドラゴン
共同製作:一般社団法人劇団温泉ドラゴン、劇団58ROUTE
後援:杉並区

『焼肉ドラゴン』のコ・スヒ氏も参加

韓国側を担う「劇団58ROUTE」は、韓国の実力派女優コ・スヒ氏が2023年に立ち上げた劇団です。

コ・スヒ氏は、2008年に上演された日韓共同制作『焼肉ドラゴン』への出演をきっかけに、日本演劇界でも大きな注目を集めました。同作での演技が高く評価され、第16回読売演劇大賞優秀女優賞を受賞。日本出身以外の俳優として初の受賞という快挙を成し遂げたことでも知られています。

そのコ・スヒ氏が率いる劇団58ROUTEが、日本で公演を行うのは今回が初めてとなります。

『長生炭鉱―生きたかった』は、単なる国際共同制作という枠を超え、日本と韓国の演劇人が共に創作に向き合いながら、人間の尊厳や記憶、対話の大切さを舞台上で表現する意欲作です。

座・高円寺の新たなスタートを象徴する作品のひとつとして、多くの注目が集まっています。

シライ芸術監督が掲げる未来へのビジョン

今回のトークの中で特に印象に残ったのが、シライケイタ芸術監督が語る劇場の未来像でした。

シライ氏は、「世の中のあるべき姿をまず劇場が創っていく」という大きなスローガンを掲げています。その背景には、誰もが安心して集うことができる場をつくり、多様な人々が互いを尊重しながら共に生きる社会を目指したいという強い思いがあります。

また、国際交流や人材育成にも積極的に取り組み、座・高円寺を世界水準の舞台芸術が集まる創造拠点へ発展させたいという明確なビジョンも語られました。

特に印象的だったのは、舞台芸術が持つ「対話」の力についてのお話です。演劇は、人と人が向き合い、言葉や表現を通して互いを理解しようとする営みであり、その積み重ねが社会や地域を豊かにしていくという考え方に、大きな共感を覚えました。

だからこそシライ氏は、韓国や台湾をはじめとするアジア各地との交流を深めながら、舞台芸術を通じた国境を越える対話を育んでいきたいと考えています。今回上演される『長生炭鉱―生きたかった』も、そうした理念を体現する作品のひとつとして位置付けられているように感じました。

開かれた劇場を目指して

新体制となった座・高円寺では、「開かれた劇場」の実現に向けてさまざまな取り組みが進められています。

劇場運営の根幹には、ハラスメント防止ガイドラインの整備やアクセシビリティ向上への取り組みが据えられており、年齢や立場を問わず、誰もが安心して訪れることのできる公共空間づくりが進められています。

また、地域住民に向けた区民割引サービスの導入や、これまで親しまれてきた「座の市」を新たに「劇場前マルシェ」としてリニューアルするなど、劇場を単なる観劇の場ではなく、“日常の延長線上にある広場”として機能させようという姿勢も感じられました。

その象徴とも言える場所が、2階にある「まぁるいカフェ」です。今回の「まちと劇場のカフェトーク」もこの場所で開催され、来場者がドリンクを片手に気軽に参加し、劇場スタッフや登壇者と同じ目線で言葉を交わしている姿がとても印象的でした。

さらに、カフェスペースには新たに絵本が並べられ、「えほんのわっか つなぐプロジェクト」も始動。子どもから大人までが自然に立ち寄り、物語や文化に触れられる空間づくりが進められています。

今回の取材を通して強く感じたのは、座・高円寺が今、「劇場とは何か」というあり方そのものを見つめ直し、新しい公共劇場の形を模索しているということです。

文化を“特別なもの”として閉じるのではなく、地域へ、社会へ、人へと開いていく。そんな新しい風を、「まちと劇場のカフェトーク」や「まぁるいカフェ」の温かな空気の中に感じることができました。

17年間積み重ねられてきた歴史を大切に受け継ぎながら、新たな挑戦を始めた座・高円寺。その歩みは、これからの公共劇場のあり方を示す一つのモデルになっていくのかもしれません。

編集後記

今回の取材で特に印象的だったのは、「劇場が街と会話を始めている」という感覚でした。

会場となった2階の「まぁるいカフェ」には、これまで以上に柔らかな空気が流れており、新たにそろえられた絵本の存在も含め、小さな子ども連れでも自然に立ち寄れる地域の居場所のような雰囲気がありました。劇場というと、どこか非日常で敷居の高い空間を想像しがちですが、今回の「まちと劇場のカフェトーク」では、そのイメージが大きく変わったように感じます。

大川智史館長とシライケイタ芸術監督の軽妙な掛け合いも非常に印象的でした。お二人のトークには自然なユーモアがあり、会場からは笑いも起こります。しかし、その空気の奥には、「劇場をもっと地域へ開きたい」「文化をもっと身近なものにしたい」という真剣な思いがしっかりと感じられました。

また、17年間にわたり劇場創造ネットワークが築き上げてきた「地域に根ざした公共劇場」という土台を受け継ぎながら、新指定管理者である合同会社syuz’genが、その理念をさらに現代的に発展させようとしている姿勢も強く伝わってきました。

その新体制の象徴的な作品として、『長生炭鉱―生きたかった』が選ばれたことにも大きな意味を感じます。

歴史を見つめ直し、人と人との対話を生み出し、文化を通じて新たなつながりを育んでいく。今回のカフェトークからは、そんな座・高円寺の未来への意志が感じられました。

過去を忘れないこと。
対話をやめないこと。
文化を通して人と人がつながること。

座・高円寺は今、「劇場とは何か」を改めて問い直しながら、新しい公共劇場の形を模索しているように感じます。

17年間積み重ねられてきた歴史の上に、新しい風を吹き込みながら始まった座・高円寺の新たな17年。その最初の一歩を、今回の取材で確かに感じることができました。

※取材時点の情報です。掲載している情報が変更になっている場合がありますので、詳しくは電話等で事前にご確認ください。