まいぷれ杉並区スタッフが行った!みた・きいた!

西荻窪駅北口から、北へ歩くこと約11分。
東京女子大学にもほど近い西荻北の街を歩いていくと、「3313アナログ天国」という、なんとも気になる名前のお店があります。
扉の向こうに広がっているのは、たくさんのレコードと本格的なオーディオシステムに囲まれた空間。
壁際にはレコードがずらりと並び、店内には大きなヴィンテージスピーカー「ALTEC A7」が存在感たっぷりに鎮座しています。
ここは単にレコードを飾ったカフェでも、昔の音楽を懐かしむだけの場所でもありません。
レコードを選び、聴き、音楽について語り合う。
そして、レコードに刻まれた音楽や文化を次の世代へとつないでいく。
「3313アナログ天国」は、そんな音楽好きのためのカフェ&バーであり、さまざまな人たちが音楽を通じて出会う場所でもあります。
今回は、そんな西荻窪の「3313アナログ天国」を訪ねました。


まず気になる「3313」という店名。その由来はLPレコードの回転数「33 1/3回転」です。
2022年11月3日の「レコードの日」に下北沢でオープンし、2025年5月23日に西荻窪へ移転しました。
店内には、店外保管分を含め1万枚を超えるLPレコードがアーカイブされています。
中心となるのは1960~80年代の作品。ロックをはじめ、ブラックミュージック、日本のフォーク、ロック、ニューミュージックなど、幅広いジャンルのレコードがそろっています。
さらに「ミュージック・マガジン」「レコード・コレクターズ」「ブルース&ソウル・レコーズ」などの音楽雑誌や、ポピュラーミュージックに関する書籍も多数所蔵。
音楽を「聴く」だけではなく、その背景にあるアーティストや時代について「読む」こともできる、まるで音楽のアーカイブのような空間です。
店内では、並んでいるレコードから聴いてみたい一枚を選んでリクエストすることもできます。
ジャケットを眺めながらレコードを探す。
ターンテーブルに盤が載せられ、針が落ちるのを待つ。
聴きたい曲を検索すればすぐに再生できる時代だからこそ、こうした一連の時間もアナログレコードならではの楽しみです。
そして店内でひときわ存在感を放っているのが、大型ヴィンテージスピーカー「ALTEC A7」。
オーディオシステムは和田博巳さんが監修し、ターンテーブルにはTechnics SL-1200GRを2台使用。Phasemationのカートリッジ、フォノイコライザー、プリアンプ、真空管パワーアンプなどを組み合わせ、本格的な環境でレコードを楽しむことができます。
また、通常営業だけでなく、音楽評論家やミュージシャン、編集者、レコード会社関係者などを招いたイベントも数多く開催されています。
レコードを保管するだけではなく、実際に鳴らし、語り合い、人と人が音楽を通じてつながっていく。
それも3313アナログ天国の大きな魅力です。


「3313アナログ天国」を営むのは、運営会社・アプシィレコード株式会社の代表取締役でもある吉岡 賢さんです。
吉岡さんと音楽との深い関わりは、1978年の札幌にさかのぼります。当時、オーディオ評論家・和田博巳さんが営んでいた音楽喫茶「和田珈琲店」に通い、そこでポピュラーミュージックの世界へ深く傾倒していきました。
それから40年以上の時を経て、今度は吉岡さん自身が音楽好きの集まる「3313アナログ天国」をオープン。店内に並ぶ1万枚を超えるLPレコードの中心は、吉岡さんが長年にわたり集めてきたコレクションです。
そして、かつて吉岡さんに音楽の魅力を伝えた和田さんは、3313アナログ天国のオーディオシステムを監修。店内の名機「ALTEC A7」をはじめとする音響環境にも深く関わっています。かつて音楽喫茶に通っていた一人の青年が、時を経て自ら音楽を伝える場所をつくる——。その歩みも、3313アナログ天国の魅力のひとつです。



そんな3313アナログ天国で2026年8月9日(日)に開催されたのが、「関 智のレコ馬鹿パラダイス」第4回、帰ってきた久住昌之『今度はスライドショーだ!』です。
「関 智のレコ馬鹿パラダイス」は、編集者・プロデューサーの関 智さんが、レコード好きの著名人をゲストに迎え、その人の音楽体験を“ネホリはほり”聞きながら、実際にレコードを聴いていくシリーズ。
今回のゲストは、『孤独のグルメ』の原作者として知られる漫画家・ミュージシャンの久住昌之さんです。
久住さんは泉晴紀さんとのユニット「泉昌之」で1983年にデビュー。谷口ジローさんとのコンビで生み出した『孤独のグルメ』はテレビドラマ化され、多くの人に知られる作品となりました。
一方でミュージシャンとしても活動し、ドラマ『孤独のグルメ』では音楽制作にも携わっています。
聞き手を務める関 智さんは、徳間書店「SFアドベンチャー」編集部で小松左京さん、筒井康隆さん、夢枕獏さんら数々の作家を担当。その後はゲームプロデューサーとしても活躍してきた人物で、久住さんの長年の担当編集者でもあります。
久住さんは「レコ馬鹿パラダイス」第1回にも出演。その際の選曲とトークが好評を博し、続編を望む声を受けて再登場となりました。
今回のタイトルは「今度はスライドショーだ!」。
スクリーンに次々と映し出される写真や映像を見ながら、久住さんが旅先で出会った風景や食べ物、街で見つけた面白いものなどについて語っていきます。
何気ない一枚の写真から思いがけない話へ。
そこからさらに、記憶に残る一曲へ。
久住さんならではの視点とユーモアあふれるトークに、会場からは何度も笑い声が上がりました。
長年一緒に仕事をしてきた関さんが聞き手だからこそ飛び出すエピソードもあり、二人の軽妙な掛け合いも楽しみのひとつです。
そして話の中に音楽が登場すると、3313アナログ天国の膨大なコレクションからレコードが選ばれます。
ターンテーブルにレコードを載せ、針を落とす。
先ほどまで聞いていた久住さんの旅や食の話を思い浮かべながら、その曲を会場のみんなで聴きます。
大きなALTEC A7から店内いっぱいに広がるアナログレコードの音。
「音楽と旅とグルメ あなたの記憶をくすぐる共感エンターテイメント」という今回のイベントのテーマが、まさに目の前で形になっていました。

今回3313アナログ天国を訪れて感じたのは、アナログレコードの魅力は「音」だけではないということです。
昔聴いていた曲から、その頃の風景を思い出す。
旅先で耳にした音楽から、そのとき食べたものや一緒にいた人まで思い出す。
久住さんの写真や旅、食についての話から次々と音楽の記憶が呼び起こされていく様子を見ていると、音楽には人それぞれの人生の記憶も一緒に残っているのだと感じます。
スマートフォンひとつで世界中の音楽を瞬時に聴ける時代だからこそ、一枚のレコードを選び、針を落とし、同じ場所に集まった人たちと一緒に聴き、その音楽について語る。
そこには、アナログならではの豊かな時間があります。
1万枚を超えるレコードと音楽資料、本格的なオーディオシステム。そして音楽を愛する人たちが集まり、語り、同じ音を楽しむイベント。
西荻窪にある「3313アナログ天国」は、昔からレコードを愛してきた人はもちろん、アナログレコードをほとんど聴いたことがない世代にとっても、新しい音楽との出会いが待っている場所です。
西荻窪を訪れた際には、少しだけ時間をゆっくり進めて、「アナログ天国」の扉を開いてみてはいかがでしょうか。


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